独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業

平成24年度 独立行政法人福祉医療機構 社会福祉振興助成事業「就労継続支援従事者(管理者・職員)研修」ガイドラインの公開・事業報告

背景

国際的な動向として、障害者の「社会参加」と「自立」が謳われる中で、我が国もそれらを目指すべく、新たな制度、施策の方向へと舵を切った。特に障害者の「就労」はその改革の中心となるものである。そのため、就労支援施設では工賃の向上を目標として、工賃倍増の計画が立てられ実行されてきた。しかし、5カ年計画の成果は数百円程度/月の増加がほとんどであり、残念ながら成果が出なかったと結論づけるほかない。
工賃倍増に関する報告書を見ると、工賃が向上しない理由として、これまでとは異なる施設運営の必要性、職員の意識変革の難しさ、就労支援ノウハウの欠如等を挙げているが、福祉従事者(ここでは、管理者と職員両者のこととする)に対するこれら課題へのガイドラインほとんど示されていない。
これまでの就労継続支援B型事業所(授産施設)は訓練をするための事業所として位置付けられてきたため、実態として、支援の多くは日中活動をメインとしたものであり、就労の自立に向けた支援はほとんどなされてこなかった。そのため、施設管理においても福祉特有の方法でなされてきた歴史があり、事業を行い、収益を上げていくという新しい体制には追い付いていない状況がある。近年の制度、施策の変化により、従事者は新たな意識の醸成や支援、事業所管理が必要とされているにもかかわらず、その具体的な方法が示されていないために、従事者が困惑し、制度が目的としている事業所管理や支援がなされていないという事実がある。

本事業の目的

事業の内容

本事業は、有識者、障害者福祉の専門職、福祉コンサルタントで構成された委員会を全3回開催し、実施内容を詳細に検討しながら進めていった。
就労継続支援B型事業所の従事者(管理者・職員)の意識や、施設の持つ課題を、幅広く明らかにするために、全国のB型事業所の施設長と職員に対してアンケート調査を実施し、アンケート調査結果の補足として、全国の先駆的な取り組みを行っている4事業所を対象にインタビュー調査を行う。

調査結果はこちら

調査結果をもとに、ニーズや現状に則した研修を組み立て、東京と大阪で3回ずつ行い、受講者の意見や意識の変化をアンケート調査等によって明らかにしながら、今後のB型事業所のあり方や利用者支援のあり方を提言し、ガイドラインにまとめる。

調研修概要はこちら研修後のアンケート結果はこちら
ガイドラインはこちらガイドライン別冊資料はこちら

委員会メンバー

委員(五十音順、敬称略)◎が委員長

氏名 所属
朝日 雅也 埼玉県立大学 保健医療福祉学部 教授
中島 隆信 慶応義塾大学 商学部 教授
松上 利男◎ 社会福祉法人北摂杉の子会 常務理事
吉野 智和 特定非営利活動法人エクスクラメーションスタイル 理事長
船谷 博生 株式会社テミル 代表取締役
中尾 文香 株式会社テミル プロジェクトマネジャー
筒井 啓介(事務局兼) 特定非営利活動法人コミュニティワークス 理事長

委員会の実施

委員会の実施日は、下記の通りである。なお、委員会の開催は3回であるが、事業全般のこと、調査票の作成や研修の実施、ガイドラインの作成に向けて、適宜メールや電話でご意見をうかがった。

委員会及び事業の実施スケジュール

  日時 主要議題・調査目的
第1回委員会 2012年7月3日 ・各委員紹介
・事業の目的・内容・成果の確認
・全国アンケート調査の検討
・スケジュールの確認
本調査(質問紙) 2012年10月10日~10月31日
(但し有効回答は、分析を始める12月1日までに回収されたものも含む)
就労継続支援B型事業所の従事者(管理者・職員)を対象とする工賃向上の取り組みおよび事業所側の意識に関する調査。
第2回委員会 2012年12月17日 ・全国調査結果の報告
・研修の内容について検討
研修
(東京と大阪で3回ずつ)
東京(2013年2月1日、2月11日、3月5日)
大阪(2013年2月8日、2月13日、2月27日)
・全国アンケート調査結果報告
・経済学、障がい者就労関連制度、マーケティング、ガバナンス等から就労および事業所の在り方を考える内容の研修。
第3回委員会 2013年3月21日 ・研修の結果について
・ガイドラインの内容確認
・報告書の内容確認
・今後の課題について
・事務局による連絡事項

事業の成果と課題

無作為抽出した1,000のB型事業所の施設長及び職員それぞれにアンケート調査(計2,000名対象)を行った結果、回収率が55.8% あり、従事者の関心の高さがうかがえた。調査の結果では、「就労継続支援事業所を『訓練』の場として捉え、そこで働く利用者の工賃が最低賃金を下回るのはある程度仕方がない」と考える管理者・職員が多くいること、また、支援をする上で、「福祉の向上を目指すこと(支援の質を向上させること)」と「工賃を向上させる」ことが相反することと考えているということも明らかとなった。
調査結果から、就労継続支援従事者の多くがこのような意識であれば、工賃を上げることは非常に困難であると考えられ、「なぜ工賃を上げるのか」「支援の充実と工賃の向上」を中心として、受講者と共にB型事業所のあり方について考える機会となる研修内容が完成した。研修後の受講者アンケートから8割を超えて「満足する」という 成果を得ることができ、3回の研修を実施する前と後では、B型事業所のあり方や工賃の考え方について63.3%が「変化があった」との回答があった。3回の研修で、多くの受講者の意識に変化をもたらすことができ、非常に大きな成果があったと考えられる。研修後には、御礼の手紙をお送りくださった事業所もあり、本事業の成果を今後の事業に活かしていきたいと強く感じた。

(課題)
研修では、B型事業所が抱える課題に対して、より具体的なノウハウを紹介してもらいたいとの要望も多かったため、今後の研修内容の参考にしたい。また、研修の受講希望者が想定よりも多かったため、何名かの受講を断ることとなった。今後は会場等を検討し、希望者全員が受講できるようにしたい。大阪会場では、回を追うごとに受講者が増加したが(会場が広くなったという理由もある)、東京会場では、少しずつではあるが減少していた。B型事業所は「訓練」と考えている受講者のニーズにはそぐわない内容であったためであると考えられる。

今後の課題(新たなニーズ)

今回行った研修をさらに充実させていくために、B型事業所が抱える問題や矛盾についてさらに詳しく調査する必要があると考えている。また、要望が多かった、B型事業所の利用者を対象として「働くこと」に関する調査についても実施したい。このニーズの実施及び手法については今後検討する。

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【受託団体】

特定非営利活動法人コミュニティワークス
〒292-0804 千葉県木更津市文京6-4-4
TEL:0438-20-3326(地域作業所hana 10時~17時)
FAX:0438-20-3327 メール:info@npo-cw.net

【協力】

社会福祉法人北摂杉の子会、特定非営利活動法人エクスクラメーションスタイル、株式会社テミル